灼熱のアフリカは間違い? 防寒着が必要な地域も

東京の夏は、暑い。日中は陽を照り返し、夜になっても熱を抱えるアスファルトの地面に覆われるなか、40℃に迫る気温と湿気の多い日々の連続は、身にこたえる。そして、辛いのは日本人だけではない。アフリカ各国から来日された人々にとっても、この暑さはしんどいと聞く。東京の夏は本国よりもはるかに過酷だとの声を、これまでも度々耳にしてきた。

アフリカを語る際、「灼熱の……」と形容されることがあるが、灼けつくような暑さを強いられる地域は、実はそれほど多くはない。東西に横たわるサハラ砂漠の南に接する、ニジェールやチャド、スーダンといった国々など、一部地域では気温が40℃を超えることがあるものの、西部から中部にかけてのほとんどの国では、昼間の最も暑い時間帯でも、おおよそ30℃前後だ。湿度は地域によって様々だが、それでも、東京の夏ほどに過酷ではない。

2002年のこと。日向では温度計の針が50℃を振り切ってしまうほどの暑さだったスーダンを旅していた私は、陸路国境を越え、隣国のエチオピアへ入った。エチオピアは、標高2000メートルを超える高原を抱える天空の国だ。列車のスイッチバックを思わせるつづら折りの道を進むにつれ、気温はぐんぐんと下がていく。夜になってやっと宿にたどり着いた頃には、私の体はすっかり冷え切っていた。手元の温度計の針は、5℃を指している。陸路をたった2日移動しただけで、40℃以上の気温差を感じることとなるとは思わなかった。

屋内に入ってもブルブルと震え続ける私を見て、宿を営むご家族は、熱いコーヒーと、炒り卵をふるまってくれた。宿のご主人は、「食べれば、体が熱くなる」と、片言の英語で一言。大変ありがたかったのだが、「炒り卵ではそんなに温まらないですよ……」と思いつつ食べてみると、ご主人の一言に合点がいった。炒り卵にたっぷり散りばめられた緑色の野菜は、刻んだ青唐辛子。顔から汗が噴き出し、体がじんわりと温まってきた。

ありったけの服を着込み、厚手の毛布にくるまって、床に着く。熱い味噌汁が、恋しくなった。

肌寒い気候は、エチオピアだけではない。

多くの野生動物を抱える国立公園で有名なケニアやタンザニアも、朝夕はかなり冷え込む。毛糸のセーターを着込み、ミルクティーにシナモンなどを加えた熱いチャイをすする人々の姿を、あちこちで見かけるほどだ。

ジンバブエのガソリンスタンドに併設されているキオスクで、冷えた体を温めようとコーヒーを求めにやってきた夜警のガードマンたちが、白い息を吐きながら談笑していた。長身をぎゅっと前に屈め、両手を口元に添えて吐く息で温めては、手をさすっている。「今日も冷えるね」と声をかけ、私もその輪に加わった。

ナミビアや南アフリカ共和国まで南下すると、日中でも気温が20℃に達しない季節が長く続く。暖炉を備えた家屋も多く、朝は、薪をくべることから始まる。ごくたまに、雪が降ることも。アフリカの東部から南部にかけての国々では、汗ばむこともあるが、気候は概ね冷涼だ。地域によっては、案外、アフリカも寒いのだ。

時期と地域によっては、避暑を目的にアフリカの地を訪ねるのも、当然アリ。ただしくれぐれも、防寒着をお忘れなく。

 

(初出:岩崎有一「灼熱のアフリカは間違い? 防寒着が必要な地域も」アサヒカメラ.net 朝日新聞出版/公開年月日は本稿最上部に記載/筆者本人にて加筆修正して本サイトに転載)