アフリカへ発つ
今、アフリカを訪ねる旅の荷支度をしている。
荷を詰めるたびに、荷物の量がずいぶんと減ったなあとしみじみ思う。
初めてアフリカの地を訪ねたのは1995年のこと。アフリカ各地においては、ネットも携帯電話もない時代だった。当時はまだ、私自身はPCや携帯電話は持っておらず、様々な情報は紙で持ち運ぶしかなかった。懐中電灯も、重たい単3電池を伴うもの。ノートパソコンやスマートフォン、LED電球のライトなど、軽量化と小型化が進んだ現在のさまざまな装備品と比べればしかたがない面もあるが、それにしても、あまりに多くの荷物を持っていく必要があった。
まず、紙の量が膨大だった。訪ねる予定のアフリカ各国について調べて書き加えていったノートだけでなく、コピーした資料をきちょうめんに貼り付けたバインダー式のノートや、未使用のノートをどっさりと持っていた。また、ガイドブックや辞書に加え、数冊の本まで携えていた。おそらく、ノートや書籍類だけで5キロぐらいはあったと思う。
医薬品も相当な量を準備した。熱が出たらどうしよう、傷を負ったらどうしようと、各ケースで必要と想定されるものを用意した結果、医薬品だけで小さなカバンひとつ分ほどの分量となった。
万事この調子で準備を進めた結果、80リットルの登山用バックパックは膨れ上がり、重量は40kgを超えた。あまりの重さによろけながら自宅をたつ私を見た母は、さぞかし心配したことと思う。
当時アフリカで出会った旅行者のひとりからは、次々に出てくる私のノートを見て、「ユウイチには秘書が必要だね」と冗談を言われた。また、膨大な量の医薬品を見たトーゴの友人は、「それだけ薬があれば、どこでも病院を開ける」と言っていた。そう言われても、われながらうなずけるほどの装備。今になって思えばまったくもって恥ずかしい話だが、こみあげてやまない不安感に比例して、私の荷は膨れ上がっていたのだった。
今はもう、あれほどの荷を背負うことはない。
膨大だった資料の類はPCに保存しておけばいいし、よほどの奥地に分け入らない限り、 人がいるところには生活に必要なものがそろっており、もしも足りないものがあっても、現地で補填すれば良い。なので、医薬品は必要最小限のものにとどめているし、キャンプ関連用品は全く持っていない。
現在、私の旅の装備にアフリカを訪ねるがゆえの特別なものはなく、荷物リストを書き出してみても、日本国内を1週間程度旅する際の持ち物とほとんど変わらない。30リットルの小型のバックパックに全てを収めてもまだ、空きがある。不安が減り、気持ちの余裕が増えるごとに、カバンの空きも増えるようになった。
それでも、今でも必ず持っていくことにしている、アフリカ行きならではの持ち物がある。トイレットペーパーだ。アフリカでは、「大」をした際に紙を使う習慣のない地域が多い。トイレに備えられた汲み置きの水で、尻を拭うのが一般的だ。ホテルや空港など、外国人が利用するスペースではトイレットペーパーが用意されているが、バスを乗り継ぐ際の公衆トイレなどで用を足す場合は、トイレットペーパーを持参して駆け込むこととなる。
ちょっとした売店ならばどこでもトイレットペーパーを買うことができるため、現地調達でも構わないのだが、現地で売られているものと日本のものでは、「巻き」が違う。厳密に計り比べたことはないが、1ロールあたりの長さが圧倒的に違うため、現地で購入したものはすぐに無くなってしまうのだ。日本をたつ際にはいつも、1ロールだけカメラバッグに忍ばせ、“大事に大事に”使うことにしている。
今回も日本のトイレットペーパーを1つたずさえ、2月末まで、西アフリカを取材してまいります。
(初出:岩崎有一「アフリカへ発つ」アサヒカメラ.net 朝日新聞出版/公開年月日は本稿最上部に記載/筆者本人にて加筆修正して本サイトに転載)