南アフリカで聴く虹色の歌声8 ケープタウン最古のタウンシップ・ランガ

断崖が続く喜望峰、味も景観もすばらしいワイナリー、手軽に楽しめるサファリツアーなど、南アフリカ共和国(以下南ア)の観光資源は枚挙にいとまがないが、南アの魅力は自然美だけではない。様々に異なる人々が共に暮らす姿もまた、この国を特徴付ける大切な魅力のひとつだ。南アの多様さを確かめたく、2つのコンサートを訪ねた。(岩崎有一)

ケープタウン近郊の町カエリチャは、新築ラッシュが続き、新しいビジネスの機運があちこちで感じられるタウンシップ(旧黒人居住区)だった。では、他のタウンシップの状況は、どうなっているのだろう。私は、ケープタウン周辺で最も古いタウンシップのランガを訪ねた。 ランガを案内してくれたのは、ケープタウンのある南アフリカ西ケープ州政府に勤務する、ファツだ。タウンシップをより深く知りたいと相談したところ、ファツはランガを訪ねることを提案してくれたのだった。州政府前で待ち合わせた彼女を車に乗せ、私たちはランガを目指した。

「今日は、私と、もう一人、ランガに詳しい人に来てもらうことになっています。彼とはランガで落ち合う予定です」 車中でそう話したファツは、しばらくの沈黙を挟んで、話を続けた。 「私は……、これまでに一度も、タウンシップを一人で訪ねたことはありません。必ず、その地をよく知る人とともに訪ねるようにしてきました。タウンシップが危ない、と言うつもりはありません。でも……。」 ケープタウン周辺で私は感じた生まれ育ち、ケープタウン大学を卒業したファツは、そう話して口ごもった。「でも……」の後を受けて、私はなにか応えようとするも、ふさわしい言葉がすぐには出てこなかった。タウンシップが危ない場所だとは言いたくない。しかし、安全だと言ってしまうには不正確に過ぎる。ファツの沈黙は、タウンシップの姿を正確に伝えたいがゆえのものだったのだと思う。 私たちがランガの中心部に着いて間も無く、一人の男性が合流した。クリストフだ。 「私のフィアンセです。ランガで生まれ、今もランガに住んでいます」 クリストフを私に紹介しながらファツの表情が、少しやわらぐ。ファツとクリストフがまず私に紹介してくれたのは、職業訓練施設だった。

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