河岸の最終日

「土曜日も河岸(かし)に来るの? じゃあ、帰り(俺の車に)乗っていきなよ。タダってわけにはいかねえけどな。がはは。」
2018年10月6日の築地市場最終営業日に、日々私が魚を買ってきた魚屋さんのシゲルさんと茶屋で落ち合い、少しだけ仕事をお手伝いしました。こちらの魚屋さんも、これを機に店を閉じます。

この日も、シゲルさんはいつものように、半世紀近く関係を続けてきた仲卸の方々と、茶屋でひとしきり冗談話を楽しんでいました。
「お互い生きてりゃ、また会えんだろ。じゃあな。」
シゲルさんの別れ際は極めてさらりとしたもの。とかく湿っぽい私にはとても真似のできない、カラッとした挨拶でした。ちょっとでも気を抜けば涙がこぼれ出そうな1日でしたが、シゲルさんのそばにいられたおかげで、なんとか泣くことなく築地を後にしました。

自分が口にする魚の源流を知りたい思いから、ほんの数年間ではありましたが、築地を訪ねてきました。
私の知る範囲において、「豊洲への引っ越し、楽しみですね」と声をかけられる方はひとりもいません。築地を解体し豊洲を開くことで、何が改善されるのでしょう。何が得られるのでしょう。いったい、誰が幸せになるのでしょう。
どれだけ客観視を重ねようとしても、「築地を閉場させるなんて、なんとおろかな」との思いは、強まるばかりです。

築地で出会った気持ちのいい方々を想うたび、頭が下がる思いでいます。築地を介して我が家に届くうまい魚を前に、産地から我が家までの道のりを、より詳細に想像することができるようになりました。
「お互い生きてりゃ、また会えんだろ。じゃあな」とは私には言えませんが、またの再会を心待ちに、これからも私なりに、食の源流を見つめ続けていきたいと考えています。

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