カタールW杯でモロッコ選手がパレスチナの旗を掲げたことについて

現在開催中のワールドカップでは、モロッコが勝ち続けていますね。
アフリカ情勢やモロッコに関心のある方の間では、決勝トーナメント1回戦の試合後に、モロッコの選手がパレスチナの旗を掲げたことが話題になっています。アラブ語や英語、スペイン語によるSNSにおける投稿では、かなり盛んに議論されています。以下、私の感想です。

私は、モロッコの方々は「自分はアフリカ人である」というよりは「自分はアラブ人である」という思いのほうを強く持たれている方が多いように感じてきました。モロッコ滞在中、「砂漠の向こう側はアフリカだから気をつけなさい」、「アフリカは危ない」といった、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)とモロッコの間に線を引く声を聞くことが、たびたびあったからです。
アラブの方々がパレスチナに連帯を示すことを、私は不思議に思いません。ですから、あの選手がパレスチナ旗を掲げたこと自体に、私はあまり違和感はありません。
(また、念のため、だからと言ってアフリカの人々がパレスチナに連帯の意を抱いていないという話でもありません)

いっぽう、モロッコが近年とってきた政策は、親イスラエルの傾向が強いものです。モロッコは西サハラ占領政策を進めるなかで、イスラエルの技術支援のもとで「砂の壁」と呼ばれる分離壁を西サハラに建設し、西サハラ住民を分断しました。西サハラのモロッコ占領地には、あの手この手でモロッコ本国からの植民を促し続け、西サハラ占領の既成事実化をはかり続けています。2020年12月には、モロッコとイスラエルは国交正常化に合意しました。

モロッコでは、西サハラはモロッコの一部だとして教えられており、「西サハラ」ではなく「南部モロッコ」「サハラ」などと呼ばれています。モロッコ国民の多くは、西サハラはモロッコ国王が解放してくださった土地だと信じています。
モロッコでは、西サハラ占領政策に異を唱えることは違法です。モロッコの公権力は、モロッコ占領地に暮らす古来の西サハラ住民であるサハラーウィに対し、逮捕、監禁、拷問、強姦、脅迫など、あらゆる類の暴力を浴びせ続けています。モロッコ国内でこのような公権力による暴力が報じられることはありません。

SNS上で、モロッコ代表のサッカー選手が歌っている映像がシェアされています。映像の中で彼らは、「サハラはモロッコのもの」と歌っていました。
https://twitter.com/TalebSahara/status/1600847955782553602?s=20&t=n73EHcij4v14wcmCoktZBg

西サハラの置かれた状況を知るならば、パレスチナへの連帯を示すことと西サハラ占領政策の肯定は矛盾するはずです。しかし、モロッコ国内で暮らす人々にとっては、共存し得る思考となってしまっています。
モロッコ代表によるパレスチナ旗掲揚は、私にとっては、西サハラ占領政策を背景にした教育の罪深さを感じるできごとでした。

ひょっとすると、「パレスチナの旗を掲げておきなさい」との指令が当局からあったのかもしれませんが、もしそうだとすると、どの口が…白々しい…、という話です。

エルアイウン モロッコ占領地 西サハラ 2018年撮影